今日、京都下鴨修学館の内装決めがあった。ここがCift京都の拠点となる。
前の予定が長引き少し遅れて到着すると、ちょうど新家族候補の親子が到着したところ。養生された玄関を入ると、2階からにぎやかな声がする。
「白っぽく明るめにいくか……」
設計の土橋孝一先生の指示で天井にクロスがあてられている。少し離れて見上げる、オーナーの宮崎さんご夫妻、フラットエージェンシーの担当者橋本浩和さん、そしてわがCiftで京都プロジェクトを牽引している山倉あゆみ。
「壁が塗り(しっくい)やし、あえて少し違う色にするならこれ」
色見本が差し替えられるや、宮崎さんとあゆみの顔がぱっと輝いた。
「あ、それ」
「こっちがええな」
「よし、決定。次、廊下の天井」
土橋先生のリードで、みんながどやどやと廊下に出てくる。
「ここは部屋と変化をつけて、思い切って黒でどうかと思てますねん」
え、黒?! 天井に?
だが驚いたのは私くらいで、宮崎さんが「なるほど」とばかりにうなずけば、「いいですね」とあゆみ。天井にあてられたクロスは黒というよりシックなダークグレー。これ以上薄くても濃くてもいけないと皆さん総意の即決ぶりはすばらしいと言うしかない。小気味良いばかりの阿吽の呼吸で、各所の部材が迷いなく決まっていく。
玄関の真上にあたる北西角の共用ラウンジに入ると、疏水の桜並木のパノラマが視界にとびこんできた。フラットエージェンシー相談役田原さんの「ここは絶対共用にせなもったいない」の一言で、居室からオープンラウンジに変更になった。ついでに隣接する納戸と居室もとりこんで、従前の3室分を広々とぶちぬいたL字型のオープンスペースが生まれた。
「ええやろ、ここ」
その田原さんの満面の笑みに、全力でうなずいた。
内装チームの話し合いが水回りの床を「打ちっぱなしみたいに」と落着した所へ、採れたてトマトをどっさり手にしたフラットエージェンシーの吉田会長が駆けつけた。
「いやあ、いよいよですなあ!」
本当に「いよいよ」だ。途中から参画した私でさえそう思うのだから、誰より感無量なのが吉田会長、田原さん、そしてオーナーの宮崎さんと担当の橋本さんだろう。
実に3年前から温め続けてこられたプロジェクトだ。私が関わり始めた2018年11月時点からでもすでに一年半。オリンピックだコロナだと世の中がざわつく中、ふしぎな止揚を経て、こんなふうに完成していくとは、なんという機の熟し方だろう。
Ciftでは、代表が藤代健介から石山アンジュ・田浦大に引き継がれ、第二創業期としてビジョンの再定義が始まろうとしている。
居室を順に巡っていくと、どの部屋もいきいきと躍動している。図面で見れば四畳半2間の同じ構成に見えるが、L字の建物の両側に振り分けられた部屋はひとつとして同じではない。疏水に面した部屋、中庭を見下ろす部屋、隣接する宮崎さんの工房が見える部屋。
角の一室に入ると、シンボルツリーのモミノキが正面に見えた。モミノキの奥には東山、そして三十六峰の北端に仰ぐ比叡の頂。昨年10月に開講したイシス編集学校43[破]で松岡正剛校長から「比叡おろし」を教室名にいただいて以来、比叡は私にとってさらに格別の御山になった。風は山から降りてくる。風は今夜も吹いている。ならば吹く風にのっていくのも一興。窓を開けると、まるで夏みたいな熱風がおしよせた。
さあ、ここからだ。
とうとう本当にCift京都の始まりです。
みんな、美しい時間と空間を作っていくよー!