〈韓国のメディア「VILLIV」のインタビュー記事を、Cift Media にも日本語で掲載します〉
―ファミュニティとしてのCiftのご紹介をお願いします。
ファミュニティという言葉は素敵ですが、Ciftが発信しているものではなく、拡張家族(Expanded Family)という表現をしています。社会学用語の拡大家族(Extended Family)は血縁を基本とした、兄弟などによる核家族同士の多世代の繋がりを指しますが、拡張家族では、血縁を持ちません。
拡張家族として生きることで、平和活動を実践するコミュニティです。
渋谷駅前の複合ビル、渋谷キャストのレジデンスフロア13階に約40人、松濤(渋谷の近くの住宅街)と稲村ヶ崎(鎌倉の海に近いところ)に25人、計3箇所65人で他拠点で拡張家族コミュニティを営んでいます。
―Ciftをコミュニティの名前にしたきっかけを教えてください。
Ciftには様々な意味が込められています。City(街)、Center(中心)、Shift(移り変わり)…ロゴマークでは中心にi(私自身)が据えられています。
―Ciftのメンバー構成(例:職業、年齢など)についても紹介をお願いします。
メンバーは20代〜60代がいます。30歳前後が中心です。9割以上が起業家、自営業者、個人事業主(アーティスト)で、サラリーマンとして企業属する人は数名です。総じて言えばクリエイター。生き方を創造する人たちが集まっています。
―拡張家族というコンセプトが斬新だと思いました。コンセプトについて詳しい説明お願いします。以前からイスラエルにはキブツと名乗る集団農業生活形式があったり、アメリカにはシェーカーが過去に存在したりしていました。それらとはどう違うのでしょうか?
世界中に様々な集団生活の形がありますが、Ciftでは特に生活協同組合に近いと感じています。日本でも、生活協同組合が食材の共同生産や購入、また相互扶助的な役割を担っていますが、多くはスーパーマーケットや保険に加入するのと同じサービスのひとつとして利用されています。私たちは、協同組合としてお互いに対話をして意思決定をし、常に自分たちの手でコミュニティ運営をしています。
また、メンバーそれぞれの専門性を活かして、生活の中で話し合われたことを社会に還元することも目的としています。実際に農業を営むメンバーもおり、家族たちに美味しい食材を届けてくれていますが、それは農業に限らずブロックチェーンや街づくり、ボディケアーを得意とするメンバーもそれぞれの形で家族に能力をシェアしています。
―戸建やマンションを購入、もしくは賃貸にすることも十分可能だったと思います。どうしてシェアハウスの一部(渋谷キャスト13階)を使用する事になったのでしょうか?
実は、Ciftは始めから渋谷キャストありきでスタートしたプロジェクトでした。渋谷駅前を再開発する鉄道会社で、不動産デベロッパーでもある東急電鉄が渋谷キャストの構想の中に、クリエイターが住むフロアというものがありました。その相談を受けた近藤ナオと藤代健介が発起人となり、Ciftがスタートしました。
―ファミュニティはファミリ(家族)とコミュニティの融合体にも見えます。そのファミュニティを通じて、具体的に求めているビジョンもご説明をお願いします。
ファミリーとコミュニティーの融合体とは、その通りです。私たちは、生活を通して拡張家族として在り方を体現し、人生そのものをアートするような、自らを変容し続けることに挑戦しています。
日本の社会には、多くの常識と言われるルールや固定概念があり、中には古くなって時代にそぐわないものもあります。そうした社会と個人との間に生まれる歪みを解消するために、力に力で反発するのではなく、社会からの圧力を受けてもなおしなやかに自らを変えて行くことを是としています。
たとえば、子育てをしているメンバーは子育て環境や子どもの権利の改善のために市民団体も立ち上げていますが、声を上げるだけでなく、自らが実践者となり提案をすることを心掛けています。
社会や行政といった存在に何かをしてほしい、と主張するのではなく、こんなやり方がある、という提案を通して世の中に賛同者を増やし、やがて静かに常識が変わって行くような静かな革命です。ロビイストとして政府や民間団体、そしてNPOの橋渡しをしているメンバーもいます。
―個人主義も広がってます。こういう変化の中で家族型コミュニティを創り始めたきっかけは何でしょうか?
究極的な個人主義の時代だと感じています。発起人の藤代健介は、そうした時代の変化、パラダイムシフトの中に拡張家族の可能性を見出しました。彼はCiftの立ち上げ当初から、私たちメンバーを集めるまでに数百人以上の人々との対話の中から、現在のCiftの構想を思い立ちました。
個人に分断された時代で、人と人が対話をするその行為の中に、平和を見出したのかもしれません。また、家族という単位は心の拠り所となる大切なものである一方で、時に制約となり個人を縛ります。そうした家族の呪いとも言えるような側面をアップデートし、最適化したのが私たちの拡張家族です。
―Ciftの視点で、家族という共同体、そして暮らしの基盤と名づけられる「家」とは何でしょうか?
Ciftには、2通りの家があります。ひとつは、拠点としてのHOUSEです。渋谷キャスト、松濤、稲村ヶ崎のそれぞれがHOUSEです。この建物としてのHOUSE=家の中に、部屋ごとにグループを作ってシェアしています。この2人〜6名のグループが家庭で、HOMEです。HOMEは、安心できる場所、といった意味があり、実際の血縁家族にも近いものです。メンバーはHOME=家庭に属し、寝食を共にする兄弟や親子のような親密な関係を持ちながら、複数のHOMEが集まったHOUSEに暮らしています。
―一部のメンバーはCift以外暮らしの拠点を持っている人もいると聞きました。Ciftはメンバーたちにとって、どんな意味があり、どんな役割を果たしていますか?
私(平本沙織)の場合は、東京都内にCiftとオフィス、そして夫と子どもと3人の核家族で暮らす家、九州の大分にゲストハウスの合計4拠点を持っています。都内で3箇所は少し多いので今後統合していくことを考えていますが、夫と子供と暮らす家にもCiftのメンバーが泊まりに来たりもしますし、夫と子供も日常的にCiftで食事をしたりしています。
スターバックスが家庭・職場に次ぐ第三の場所(Third Place)として存在感を発揮していますが、Ciftもそういったこれまでにない第三の場所としてあるような気がしています。中には、シェア部屋ではなくCiftに1人部屋を借りて住んでいる人もいますが、そうした人にとっては、自分の部屋とCiftのコミュニティリビングに次いで、メンバーの別の拠点や家庭が第三の場所になるのではないでしょうか。
―一方的に住宅を提供される画一的な暮らしより、自分の考え方やスタイルで暮らすことに対する要求が最近高まってます。拡張家族という暮らし方がソリューションの一つだと思いますか? その理由は?
画一的な人生やライフスタイルに反発して個性が重視される時代ではありますが、その表現の範囲は決して広く無いと思います。特に、住宅に紐づく暮らしそのものは、定職に就き終身雇用で住宅ローンを組んで核家族でジェンダーの役割も固定化させ家事も内製化するといった昭和の時代、20世紀的価値観が幅を利かせていました。
しかし、こうした普通の価値観が個人の幸福を約束するものではないと、1980年以降に生まれたCiftの中心世代の三十代は皆気付いています。高い家賃を払って個人で所有する部屋はいらないし、家具や家電もシェアすれば良い。そうすると物理的にも精神的にも、人は身軽になります。家に帰らなければいけない、といったルールもなくなり、好きな時に好きな場所で、旅するように暮らせば良いのです。
10数年の海外生活を経てCiftに拠点を移したメンバーもいますが、彼はやはりその部屋にはほとんどおらず、また新しい拠点を作ったり、そういった軽やかさで毎日を積み重ね、世の中の主流とは違った自己流のライフスタイルを実践しています。
―多彩なるメンバーが集まり、考え方や暮らし方がメンバー間で認識の差があることは有り得ると思います。シフトとしてはコミュニティーを長期的に維持するためどうなる努力をされていますのでしょうか?その努力を通じて外部に伝えようとするメッセージが有りましたら、どうなるメッセージでしょうか?
Ciftのメンバーは共通の理念・理想を持っていますが、もちろんその全てが重なり合っている単一の思想を持った集団ではありません。言い尽くされた言葉ですが、多様性を持ったコミュニティとして、立場が異なる者同士が理解をし合うことを前提としています。
その為に最も大切なのが、対話です。お互いの立場と考えを言葉で話し、理解し合うことで、常に自身の考えもアップデートされています。家族対話を定期的に行い、また重要な意思決定については月に一度家族会議を行なっています。多い時で20人以上がオンラインツールも使って参加します。
Ciftのメンバー同士が対話で得られた理解や変化は、常に社会に還元されるべきだと考え、一周年を迎えるタイミングでメディアを始めました。
メッセージの内容は、発信するメンバーそれぞれで時に矛盾することもあります。それも含めて、社会に開いていくことで、また次なる対話を行いたいと考えています。
―これからは多彩な暮らし方が提案される可能性があります。自分が求める暮らし方で暮らそうと考えている方達に、既存在していなかった暮らし方をトライアルする立場から提案できるアドバイスは何でしょうか?
まず、自分を見つめ直すこと。具体的にはdoing(行為)とbeing(存在)で分析してみることをお勧めします。Ciftでは、メンバーになるにあたって複数回の濃密な対話があり、その場では生い立ちからイデオロギーや思想までその人のあらゆる側面が対話によって紐解かれます。
その中でも、こうありたい、こんな自分ではないかという願いを込めたbeingと、実際に行なっている行為=doingが対立している場合もあります。ある人はその対立を解消する為にCiftに入って実験をしていますし、既に存在は確立していながらも、新たな挑戦を共にするためのdoingを求めて家族になった人もいます。動機はそれぞれですが、自分自信を問い続けることで、現状維持ではなく自信を変容させることができると思います。
―最後に韓国の読者に一言お願いします。
Ciftの拠点は今のところ日本国内にありますが、メンバーそれぞれは世界中に様々なHOMEを持つ人たちです。もしかしたら、近々あなたが出会う人も、Ciftのメンバーかもしれません。その時には、ぜひ対話をしてみてください。
Interview | Angelina Gieun Lee
Photography | Ju Kim
https://villiv.co.kr/