拡張家族の社会実装〜”コレクティブ・インパクト”を体現する〜


Stanford Social Innovation Review(SSIR)の日本版を特集により読んでいる。
界隈で話題になっていたことはもちろん、創刊時より、コミュニティ連動型でメディアに留まらない活動に注目していたから。

スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版(SSIR-J)のvol.4のテーマは
“コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装”

シェアハウスというよりはコレクティブハウスに近いと言われたりもする拡張家族Ciftと重なるキーワードが並ぶ。

ソーシャルイノベーション・レビュー、つまり社会変革のための批評・比較研究の粋が詰まったこの雑誌については、公式サイトではこう説明されている。

社会変革リーダー向けの雑誌・WEBメディアです。グローバルおよびローカルな社会課題に取り組む多様なセクターの人たちが、これまでになかった新たなソリューションを見つけ、前進することを後押しする研究と実践に基づいた最高の知見を提供してきました。

私は学術畑ではないので普段から論文を読むような習慣もなければ
自身の論文といえば学士の卒論か、ソーシャルアクションのための調査研究くらいだ。
しかし子育てやジェンダー、弱者の問題を考えるとき、しばしば重要なヒントを与えてくれるのは論文であったりする。

特に根拠がありそうでなさそうな子育てや母親の役割にまつわるあれこれを解毒するのに科学的根拠に基づいたアブストラクトは幾分私を救ってくれた。(ちなみに読むならなんとか、という程度の私の語学力でも論文の要旨はとても読みやすいし、AI翻訳にもかけやすい)

コレクティブ・インパクトとは

SSIRで最も読まれた論文がまさに”コレクティブ・インパクト”なのだそう。

社会課題の解決のために、異なるセクターから集まったプレーヤーが効果的かつ長期的に連携するための条件とプロセスについて書かれたこの論文は、世界中のソーシャルイノベーターたちの指針となり、インスピレーションとなってきました。

 

“異なるセクターから集まったプレーヤー”というのは、私なりのCift観でもある「他者との違いを認め合い、互いに変容すること」とも関連するし、家族を拡張していくことで世界平和を目指すと臆面もなく掲げるCiftのメンバー達は、そう名乗らないメンバーであってもこの世界の中では既にソーシャルイノベーターだと思っている。

SSIR-J共同発起人の井上英之氏による解説は、2011年に登場したコレクティブ・インパクトについてこのように説明しながら始まっている。

2011年に登場したコレクティブ・インパクトという概念と方法論は、
「スケール」と「対話」という2つのソーシャルイノベーションの系譜が同流したものと捉えている。それがこの10年でエクイティ(社会構造による格差の解消への動き)をより重視するようになるまでの背景を、簡単に展望してみたい。

Ciftではおなじみの「対話」というキーワードがここでもまた登場する。
もちろん、定義と文脈によりそれが何を指すのか、私の認識とも同義ではないだろうが、思想もしくは理念としての「対話」に近いものであればいいな、と思う。

少し寄り道をすると、Ciftでの「対話」はとても面倒くさい。議論や会議ではないので結論は出ないし、いろいろな感情がダダ漏れになったりする(全てをさらけ出す必要もないのだが、私やその人のあり方そのものがぶつかる時に言葉を選んでいる余裕がない)。日常的な行為としては成り立たなくなっているこの「対話」という行為が、しばしば態度やテクニックとして持ち出される時、私はささくれがめくれたような痛みを感じる。私や、私の周りのコミュニティが大切にしている「対話」は、もっと人間性において重要なものであり、真心を持って差し出すことで共有される、時間と場と互いの存在を感じ合うこと、、そんなように思う。

対話を試みながらも、違いが際立って痛みが増すこともしょっちゅうだ。それでも、相手のことをより深く知り、自分の反応や心の動きを味わい、互いの存在をもっと大きな視座で肯定できる。時差があっても納得感を得られると知っているから、また臨む。ビジュアルコミュニケーションに言語が入り込み、発語する以上に流れ過ぎていく言葉の上ですれ違っている私達が、ひととき手を止めて向き合おうと行動することにこそ意味がある。

井上氏の解説は、ソーシャルイノベーションの「スケール」と「対話」の合流の先にある「コミュニティ」と「エクイティ(公正)」についても端的にまとめられている。わずか3ページ分の解説でありながら、私が拡張家族のメンバー達とこの6年間を投じて行ってきた社会実験のリアルな課題もいくつかの方法論も、”コレクティブ・インパクト”の現在地として総括されている。まるで自分達の活動がケースにでもなったのではないかと勘違いしてしまいそうになるが、それだけセオリーやパターンの研究が進んでいるということなのだろう。

特にCiftのメンバーとは1冊まるごと、セクション別に連続読書会をしたいくらい、本書について語り合いたいのだけれど、コレクティブな取り組みにおける「集合的」と「集団的」の違い、といった点はまさに直近でコミュニティ内での議論も対話も活発になっているトピックなので、またそれぞれの意見を聞いてみたいと思う。

Ciftメンバーのことだから、井上氏をはじめSSIR-J編集部やコントリビューターとも、おそらくはスタンフォード大とも既に繋がりがある人はいるだろう。これを機にあらためて私達の拡張家族という社会実験と、思想の社会実装をコレクティブ・インパクトの方法論から振り返ってみたいと思う。

 

シブヤや京都をはじめCiftメンバーも各地で参加する「つなげる30人」の加生健太朗さんの実践レポートでは、共創関係・市民協働の仕組みも、これからのイノベーションがスローリーダーシップとマネジメントにより促進されると結ばれていた。ファストリーダーシップよりも、最終的に個々人が社会との関係や問いにより”行動する人”になれば、より大きなインパクトにつながる。

 

多くの失敗と試行錯誤の上に継続しているこの拡張家族というプロジェクトも6年目だ。プログラムにもならない、計画的であるよりはハプニングの連続であるようにも思えるが、それこそ人生、とも言える。

同じ取り組みではないが、世界中でソーシャルイノベーションに取り組む私たちは、もっと連携できる。一撃の解決策ではなくとも、うまくいったやり方があるのであれば、私達は学ぶことができる。拡張家族の実験から社会に何を還元できるのか、という原点に立ち戻って世界平和のために何を成したか、ということも自ら問うていきたい。

興味のある一冊を紹介するつもりが、いきおい「拡張家族の実践論(私家版)」のようにもなったが、これでまた生まれるであろうみんなの反応はきっと予想もつかないものだからこそ、100人以上が参加するグループに投稿して、今日も私は拡張家族たちと対話する。

スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版(SSIR-J)

https://ssir-j.org/magazine/