Cift京都はこんな風になるよ①居室編 


もともと修学館は、毅然とした女子寮だった。居室はすべて四畳半。1階10室、2階17室(たぶん)。共用のキッチン、リビング、談話室、シャワールーム、水回り、そして管理人室があり、すべてが整然と並んでいた。とくに印象深いのは左右に伸びる廊下の佇まい。廊下幅が広く、向かい合う部屋どうしのドアがかち合わない。あの余白が、修学館を毅然とさせていたのだろうと想像する。






今回のリノベーションで、そうとう大きく変わった。間取り以上に、空気感が変わった。いや、風の流れが変わった、と言うべきか。

V字型の建物の、入って右側、西ウィングがCift棟で、東ウィングは一般棟となる。じつはこの構成も、会心の発想の転換だった。

半分はCiftが使い、残り半分は一般賃貸で入居者を募集するという話は私が参画した当初から決まっていた。見えていなかったのは、「どう半分こするか」だ。当初、フラットエージェンシーとCiftで相談していたときは、1階と2階で棲み分ける案が有力だった。ただ、木造の1階と2階は音を多少通すから、生活トラブルを招かないしくみか構造かルールが必要だね、と話していた。そこからの大逆転。

この「縦半分まっぷたつ」の名案は設計の土橋先生の案だったと聞く。

「どやろ?」

初めてこの縦割り案を提案するとき、土橋先生の口ぶりは多少不安そうだった。我々の反応に、である。だが、どう考えてもこれよりいい「半分こ」は思いつかない。

かくて、いろんなタイプの部屋をもつ西ウィング(Cift)と、四畳半の一間または二間が整然と並ぶ東ウィング(一般入居)というゾーニングプランが実現した。

多拠点ポリロールな80人からなる拡張家族Ciftには、いろんな人がいる。国内外の複数拠点を渡り歩く人もいれば、基本京都に定住することになる人もいる。月イチで週末に遊びに来たい京都好き、関西に仕事の拠点を作ろうと考える経営者もいる。多様なニーズを受け入れられるようにと、Cift棟である西ウィングには多様な部屋をご用意くださった。

まず1階。一番奥のどんつきは、キッチンを挟んで左右に振り分けた二室をもつ部屋だ。ここは、修学館全体のコミュニティマネージャーとして機能するコミュマネ部屋にすることにした。“女将”を引き受ける山倉あゆみの実験室にもなるだろう。梅仕事にあらゆるもののハチミツ漬け、漬物、味噌、発酵食品、それからそれから? とにかくいろんな美味しいものがここに育っていく。その手前には、修学館唯一の内風呂付き居室がある。ここはCift有志でシェアルームとして使えば、子供連れで遊びにくるCiftファミリーにも使い勝手がいいと思うのだが、どうだろう? 誰か希望者はいないかな? 入ってすぐの四畳半2室はすでに入居者が決まった。新潟出身の学芸員と建築系場づくり男子が、それぞれの基地化計画に余念がない。

次に2階は、四畳半二間つづきの居室が4つに、四畳半1室。四畳半は京都・沖縄・台湾で活躍する建築青年が即決した。居室4つのうち1室は東京勢が数人でシェアする。茶人、ミュージシャン、弁護士、食のスペシャリストと属性も多様で、いったいどんな部屋になるのか想像がつかない。大学の多い左京区だけあって、ここから通学したいと入居を検討中の大学生もいる。

場も組織もつくるのは人だが、アフォーダンスのちからは大きい。新生修学館で素晴らしく嬉しいのは、土地と建物が発揮するアフォーダンスのちからが慎重に検討されていながら、設計と空間デザインが使い方や住人の行動をコントロールしようとしていないことだ。支配は手放され、ここで何が生まれるかは、使い手の想像力と創造力にゆだねられている。まだ誰も思いついていない未生の選択肢と、その可能性が信じられている。パラレルな選択肢を残しながらプランが詰められているのだ。どこを見てもそれが感じられて心躍る。暮らし手の想像力はさぞ惹起されるだろう。

なお、一般棟は、フラットエージェンシーが管理するシェアハウスとして、同社の公式ウェブサイトに物件情報が掲載されており、すでに数室は入居者が決まっている。


以上、今回は住居部分を案内してきた。次回は、Cift棟と一般棟の間をつなぎ修学館全体を包み込む、圧巻の共用部について紹介する。